なぜ王は、巨大なシュトーレンを作らせたのか?

「シュトーレン祭りの始まり」——王が命じた、巨大菓子の誕生劇
毎年12月、ドイツ・ドレスデンでは、巨大なシュトーレンを囲んで祝う伝統的な祭りが行われています。
世界中のシュトーレンファンや観光客が集まるこのお祭りの起源には、一人の王様と宮廷文化が深く関わっているのをご存じでしょうか?
今回は、**「ドレスデン・シュトーレン祭り」**の誕生秘話と、そこに込められた歴史的背景をたどります。
宮廷文化とシュトーレン —— “冬のごちそう”への昇格
時は18世紀、ドレスデンがザクセン選帝侯国の首都として栄えていたころ。
宮廷では音楽、舞踏、食文化などあらゆる芸術が発展し、なかでも冬のごちそうとして“シュトーレン”が特別な位置を占めるようになります。
宮廷に仕える職人たちは、バターや砂糖、ドライフルーツなどをふんだんに使った豪華なシュトーレンを焼き上げ、それはまさに**“富と権威の象徴”**として、貴族の宴を華やかに彩りました。
そして1730年、歴史を変える巨大シュトーレンが誕生!
この伝説的な出来事の主役が、**ザクセン選帝侯・アウグスト強王(August der Starke)**です。
彼はバロック文化の庇護者であり、自身の権力を誇示する豪奢な催しを数多く主催したことで知られます。
その中のひとつ、1730年に行われた大規模な軍事演習「Zeithainer Lustlager(ツァイタインの祝宴)」。
ここでアウグスト強王は、宮廷の権威と民衆への恩恵の象徴として“巨大シュトーレン”を作らせたのです。
巨大シュトーレンに託された3つの意味
①王の威信の誇示:贅を尽くした巨大菓子で、君主としての力を示す
②兵士たちへの労い:軍隊の士気を高めるための振る舞い菓子として
③パン職人文化の発信:ドレスデンの技術と誇りを体現するシンボルに
このシュトーレンは、長さ約1.8メートル・重さ約1.8トンという驚異のスケールで焼き上げられ、銀製の巨大ナイフで切り分けられて兵士や招待客に振る舞われました。
ちなみに、この「銀のナイフ」は現在も伝統の象徴として祭りで使用されているんですよ。
現代に受け継がれる祭り ——「ドレスデン・シュトーレン祭り」の復活

この壮大なエピソードを背景に、1994年、ドレスデンでは**「Stollenfest(シュトーレン祭り)」**が正式に復活します。
この祭りでは、現代の職人たちが4トン級の巨大シュトーレンを焼き上げるのが恒例です。
✔ 巨大なナイフと共に、職人たちがパレードを行い
✔ 市民や観光客に向けてシュトーレンが振る舞われ、販売される
✔ ドレスデンを代表する観光イベントとして世界中に知られる存在に
焼きたての甘い香りと、手作業で丁寧に仕上げられた伝統の味。
街全体がひとつになって祝うこのお祭りは、“食”と“文化”が交わる特別な時間です。
伝統は、味だけではなく「物語」とともに受け継がれる
この祭りが語るのは、ただの「大きなお菓子の話」ではありません。
文化を守り、誇りを伝え、地域を一体にする力が“菓子”にあるということ。
そして、私たちがシュトーレンを作る時もまた、その背景にあるこうした物語を胸に刻みながら、ひとつひとつ焼き上げています。
次回予告|「なぜシュトーレンは巨大化したのか?」
次回は、巨大化した“特別な菓子”がどのように民間へと根付いていったのか、そして「お祝いの象徴」としての意味がどのように広がっていったのか——
その背景をさらに深掘りしていきます。
シュトーレンのご案内
歴史と文化を感じながら、味わうひととき。
イワナガ焼菓子店では、伝統にインスパイアされた“スパイス香る大人のシュトーレン”をご用意しています。


