ドレスデン・シュトーレン祭りと巨大シュトーレンの由来

巨大シュトーレンの秘密 —— 王の命令から始まった“分かち合い”の伝統
ドイツ・ドレスデンの冬を彩る風物詩といえば、毎年12月に開催される**「ドレスデン・シュトーレン祭り」**。
その最大の見どころが、全長数メートル、重量4トン級の巨大シュトーレンが街を練り歩くパレードです。
でも、ふと疑問に思いませんか?
なぜ、こんなにも大きなシュトーレンが作られるようになったのか?
その答えは、18世紀の王の“ある命令”に遡ります。
巨大シュトーレンのはじまり——アウグスト強王の壮大な演出
時は1730年。
ザクセン選帝侯国(現在のドイツ東部)を統治していたのが、アウグスト強王(August der Starke)。
バロック時代を象徴するこの王は、豪奢な文化や催しを好み、ドレスデンを芸術と祝祭の都へと導いた人物です。
その年、王は**ドイツ史上最大級とも言われる軍事演習「Zeithainer Lustlager」**を開催。
数万人の兵士や貴族が集うこの一大イベントを、ただの訓練で終わらせたくなかった王は、ある壮大な計画を打ち出します。
「すべての人を驚かせる、巨大なシュトーレンを作れ。」
この命令を受け、職人たちは前代未聞の菓子作りに挑戦。
結果、長さ約1.8メートル、重さ約1.8トンという空前のスケールのシュトーレンが誕生したのです。
この巨大シュトーレンは、特製の銀製ナイフで切り分けられ、王侯貴族だけでなく、兵士や庶民にも振る舞われたと伝えられています。
巨大シュトーレンは何のために?
この大胆な計画には、アウグスト強王なりの**“狙い”**がありました。
- 王の権威を示すため:驚異的なスケールの菓子で、自らの力を誇示
- 兵士たちの士気を高めるため:祝宴の食卓を華やかに彩り、連帯感を演出
- 職人文化を称えるため:ドレスデンの製パン技術と芸術性をアピール
そしてもうひとつ。
巨大なシュトーレンを「分け与える」ことで、**“分かち合いの精神”**を象徴的に表現していたともいわれています。
1994年、伝統は「祭り」として甦る

それから時が流れ、1994年——
**「ドレスデン・シュトーレン祭り(Stollenfest)」**が正式に復活します。
この現代の祭りでは、職人たちが力を合わせて重さ4トン級の巨大シュトーレンを焼き上げ、巨大ナイフと共にパレード形式で街を練り歩きます。
道ゆく人々に切り分けて販売され、収益の一部は慈善活動にも使われているそうです。
なぜ今も巨大シュトーレンが作られるのか?
伝統とは、単に形をなぞることではありません。
この巨大シュトーレンには、**今の時代だからこそ大切にしたい“意味”**が込められています。
- 職人の技術を未来へ伝えるため
- 歴史あるドレスデン文化の象徴として
- 「喜びを分かち合う」クリスマスの精神を体現するため
大きな菓子を皆で切り分けるという行為は、“ひとりのためではなく、みんなで楽しむ”という姿勢の現れ。
そこには、食を通じて人々の心をつなぐ、深い文化的価値があるのです。
最後に:甘い伝統に宿る、王の願い
アウグスト強王が命じた“巨大な一切れの夢”。
それは単なる贅沢ではなく、「誰もが味わえる幸せ」を形にしたものだったのかもしれません。
今もドレスデンの冬を彩る巨大シュトーレンは、その思いを静かに、けれど力強く語りかけてくれているようです。
次回予告|「シュトーレンのかたちの意味」
あの独特な、白い粉糖に包まれた楕円形。
実はその形にも、宗教的な意味や文化的背景が隠されています。
次回は、“なぜシュトーレンはあの形なのか?”を掘り下げてみましょう。
シュトーレンのご案内
歴史と文化を感じながら、味わうひととき。
イワナガ焼菓子店では、伝統にインスパイアされた“スパイス香る大人のシュトーレン”をご用意しています。


